- 作者:スーザン・P・トンプソン
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2019/08/22
- メディア: 単行本
この本で注目すべきは、依存性がある物質(糖、アルコール、ドラッグ…)への感受性は人により差があり、著者はもっとも依存に陥りやすいタイプであること、そして、実際に深刻な糖依存からの過食を克服した経験から書いているところ。さらに脳科学者なので、依存性のある物質に対して脳がどのように働くかということをエビデンスに基づいて丁寧に書いている。
アルコールで例えると、普通のダイエット本は「お酒は適量を楽しくのみましょう、こうすると翌日に残らないよ」みたいな話をしているところ、この本は、アル中の人向けに、どうしてアルコールに依存してしまうのかを書き「一滴も酒を飲んではいけない、酒を飲んだらスリップして元の依存生活に逆戻りしてしまうよ」さらには「こうすれば一滴も酒を飲まない人生が過ごせる」ということを書いてる。そして、アルコールやドラッグから遠ざかるよりも、日常の食事から精製糖や穀粉を取り除くことははるかに難しい。だからここで提唱される「食事法」は、半ば宗教じみた強迫観念のようなメソッドとなってしまわざるを得ない。
実際、この本のメソッドに従い、パンやケーキだけでなく一般的な甘じょっぱい和のおかずや揚げ物類も含めて、精製糖と穀粉に対し「明確な一線」を引いて摂らないことを選び、今後の人生ずっと食べないとなると、一般的な人が食事法として取り入れるのは無理がある。この本は「食事法をそのまま実践する教科書」ではなく、依存してしまう脳の仕組みを踏まえて自分の食生活を見直す参考文献として使うのが良いかと思う。
ちなみに、月曜断食の場合は「明確な一線」として、月曜は水以外は口にしないことが決まっている。わかりやすく悩むことがない一日があるので、土日に美食しても、極端に依存性が強いタイプでなければリセットできる仕組みになっている。これはアルコールでいえば「週末だけお酒を飲む」みたいな付き合い方と似ている。連続飲酒のサイクルに陥る前に、自分でコントロールをするような方法になっている。
この本のメソッドのスピリチュアルな要素に対して、うさんくさく思い嫌悪感を持つ人もいるかも知れない。でも、アルコール中毒の自助会(AA)などではキリスト教の要素が強かったり、多くの薬物中毒者更生施設に宗教が関わっているように、人が脳のコントロールを失った状態では人以上の目に見えない存在の力を借りる必要はどうしても生じるとも思う。
この本はあくまで中毒者が立ち直る方法を書いた本なのだし、そもそも食物に対する依存が生じないタイプ、自分の脳でコントロールできる人にはそのまま実行する必要はない。でも、痩せたいと思う人、ダイエットに失敗したことがある人であれば、多少なりとも依存に陥りかけた経験は誰しもあると思うし、その観点からのヒントはたくさんある良書だと思った。
それにしても、著者はここまで依存体質でありながら極めて頭脳明晰で成績は常にトップ、しかし10代から深刻なドラッグ依存に陥り、それでも大学に復学して脳科学者になり起業して多くの人を依存から救っている、さらに子どもも3人育てているというのは本当にすごい話で、人としてのエネルギーが違いすぎるし、それを受け入れることができる社会も器が大きいと感心する。
単純に面白いので、太ってない人にも読み物としておすすめしたい。