遠出をするのだからと、前夜は飲みすぎないようにそれなりにセーブしていたので、朝はスッキリ目が覚めた。フロントでヘアアイロンを借りて軽く髪を巻いた。ヴィアインの客室アメニティのポーラ製シャンプー・リンスとボディソープが結構好き。
服は、紺と白の柄の布をパッチワークしたマキシワンピの上にグレーの薄手パーカー。このワンピースはもう何年も着てるもので、微妙に和風な雰囲気もあり、夏場は軽やかで気に入ってる。生地が薄いので何度かうっかり破いたけど補修して着てるお気に入り。フレグランスはエクラドゥアルページュ。30ml入ったボトルの残りが少なくなって来たので泊まりの時用に持ち歩いてる。癖がなくてつけてて疲れない。
東京駅、行くたびに新しくなってる気がする。丸の内地下口にコスメキッチンのお店があって、MIMCの口紅(野宮真貴さんプロデュースのパリスレッド)を買った。7月31日で終売って聞いて。あと、駅ナカに@cosmeショップができてて、そこでフローフシのグロスも買った。コスメ・コム立ち上げの時にみんなで考えて作ったキャラクターのミカエルくんが店内そこここにあしらわれていて、立派になったなーって感慨深い。
東京駅は暑かったけど、上越新幹線は早くて静か。前の席のお姉さんからアリュールの香りがする。京都だとあんまりアリュールつけてる人はいない。東西で香りの好みって結構違いそうだなとか思う。色の好みも街によって違うという論文を読んだことがある。西日本の「粋(すい)」と東日本の「粋(いき)」は違う。京都とか大阪ってああいうアルデヒド系の香りつけてる人が少ない。
車中、景色を眺め、音楽を聞きながら、長谷部千彩「メモランダム」を読む。ああ、乙女座のひとだなって思う。硬質で寂寥感ある文体はかっこいい。私はわりとそこを目指しているのに、なぜか冗長に発散して着地ができなくなることがある。ちょうど、はっぴいえんどの「抱きしめたい」について書いてる文章を読んでるタイミングで、シャッフルして聞いてたプレイリストからカジヒデキのカバーする「恋の汽車ポッポ第二部」が流れ、初夏の野山を猛スピードで走る新幹線にぴったりな気持になった。カジヒデキの汽車は大滝詠一バージョンより揺れが少なくて、電化されてる。
ちょうど12時頃に新潟についたので、何か食べて出発しましょうということになった。昨日、たまたま中目黒オフィスの頃の話をしてて、当時よく食べたへぎそばが食べたくなってたし、駅前のお店がすごく美味しいって言うから気にはなったけど、すごく並んでたので手早く回転寿司に入った。
行ったことのない街の回転寿司、知らない魚がいるから面白い。船ベタは小さいヒラメっぽいやつ。すしっ子ってなんじゃろ?って聞いたら小さい魚卵とのことなので「とびっこ?」って聞いたら微妙な空気になった。昼間から大きい声で言うものではないけど、小さな声で言うほうがだめな感じがする。後で調べたら、すしっ子はししゃもの卵、とびっこはトビウオの卵なので別物。お酒は、これから車だからちょっと遠慮しようと思ってたけど、薦められるまま麒麟山を1合。同行者氏とは味の好みがわりと似てるのか、薦められるものがだめだったことがあんまりない。
何か面白いものないかなって、カウンターの向こう側に貼ってあるメニューを目を細めながら見てたら「読める?」って聞かれた。「大きい字とか画数の少ないのは読めるけど、カニ軍艦の軍艦は微妙、つぶれて読めへんなぁ」と答え、その場で一緒に読める/読めないチェックをしたところ、私達の視力、ほぼ同じで、かろうじて裸眼でも車が運転できる程度であることがわかった。
そこから車で酒田に向かう。道中ずっときれいに晴れてて、海がキラキラしていて最高だった。暑いから海で泳いでる人もちらほらいる。私は、海の近くで育ったから海のそばに来ると嬉しいんだけど、日本海は拉致されそうで怖いよって冗談で言ったら「たしかに子どものころは5時すぎたら海沿いに行かないようにって言われてた」とのことで、やっぱり拉致されるんじゃん、冗談ではなかった。それにしても、阿賀野川を渡るときに「阿賀野姉~」 最上川を渡る時「もがみん!もがみん!」ってなるのでオタクとの旅は良い。
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さて、今回、なぜ酒田に行くことになったかというと、あがた森魚さんの弾き語りライブが酒田のライブハウスであるというので、それを見るため、それと、よくわからないけど食材の宝庫だし古くから栄えた街なんだから、そりゃ食べ物とお酒は絶対美味しいだろうという期待のもと出かけたわけです。
しかし、それぞれ宿にチェックインして合流してから市街地を歩いても、なんか人があまりいないし、店もあんまりあいてない。街はJRの駅から港にかけて広がっていて相当広いんだけど、どこが一番栄えている地域なのかの勘が働かない。確かに、デパートというかショッピングセンターっぽいものがありアーケードもある。そこが中心街なような気もする。そのわりには、人がとにかく少ないし、これはもしかすると駅前のほうが強いパターンなのかと思って駅まで歩いたら、さらに何もなかった。コンビニもファストフードもない(というか、飲食店がほとんど見つからない)ので、夜に向けて暗雲がたちこめてきた。それ以前にライブまでに少し何かお腹を満たしておかないとつらいという現実もある。
シャッターが半分しまった店の扉に化物語のポスターが貼ってあって「アニメBar」とか言う業態のお店らしい。化物語のポスターを見るとパチンコ屋さんなのかとおもってしまう。まあ、そういうお店もあるらしいけど昼間だから閉まっている。商店街では誰もいない店に賢そうな犬だけが店番していたりする。おもわず「ポストアポカリプス…」とつぶやくと「流石に失礼だろ」と、たしなめられたけど、二人で街を歩いてると「けものフレンズ」を思いだしてしまう。ボスもフレンズもいないしジャパリまんもないから状況はさらに悪い。
最終的に元のショッピングセンターに戻り、唯一空いていた回転寿司に入った。昼も回転寿司なので完全に敗北した感じ。ヤケクソでビールを頼んだ。私達以外にお客はおらずベルトコンベアーは止まっている。私たちが座ったら店員さんがコンベアーを回しだしたけど当然寿司は回っておらず、ただ概念だけが回っている。注文するタブレットのUIが悪い。ついでにいうと入店時に自動ドアが私を感知してくれなかった。つらい。つらいんだけど、なんだか楽しくなって笑ってしまう。
どうにかお腹も充たされ、そろそろ開場の時間となり、ライブハウスに向かった。思ったより小さい。50席程度を想像してたら20席ぐらいだったし、でも、当日でも入れた。真ん中ぐらいに2人座り、ワンドリンクと言われたのでビールを頼んだら中ジョッキと小瓶をセットで渡された。景気がよくてようやく嬉しくなる。
ライブが始まると、ただでさえ近いのに、あがたさんはグイグイ前に来るし、むちゃくちゃ目が合ってドキドキする。MCは長い。子どものころの思い出、若いころの思い出をゆっくり話すうちに虚実わからない感じになって「ふふっ、まあいいか」って投げて歌が始まる。その特有の間がだんだん心地よくなってきて、でも、歌には力がちゃんとあって自分に届く。
力のある表現者を近くで見る体験って大事だと、教育熱心な親はみんなそういうことを言うけど、表現を受け取るには受け手側の準備も必要なので、無理強いして意味があるものでもない。それは、自分を呼ぶ声に引かれていくような体験だ。
私は14歳の時にひとりで西脇まで出かけて、横尾忠則のライブペインティングを見に行ったことがある。大きい画面に向かい合って絵の具を置く姿。生まれてくる極彩色。もっと狂気のようなものなのかと思ったら当たり前のようにそこに画家がいた。そのときのことを思い出した。でも、どうしてそんなイベントがそこで開催されているのを知ったのかは全く覚えてない。気付いたら加古川線に乗ってた。時刻表を調べて。
不特定に向けてなされる表現が、自分とつながって特別なものになること。そんな話もしていたと思う。私は、あまり考えずに衝動的に旅に出てしまったんだけど、なんか話がつながったと思った。私は、この間から引越しの荷物をまとめようとしていて、ちょうど稲垣足穂を読み返していた。それが、タルホをお父さんと呼ぶ人の歌とつながった。準備ができていたのだ。
ライブが終わった後は打ち上げがあるというけれど、私達はお酒をちゃんと呑まないといけないので早々に店を出た。良い日本酒と、それに見合うとてもおいしいものがないと困る。もう無理なんじゃないかと思っていたら、角を曲がったところに、夢のように店があった。そういえば日中その店の横を抜ける時に、なんとも良い出汁の匂いがして「だいじょうぶ、人類の文明は滅んでいない」と話していたんだ。もう10時直前だったし、閉まってるかと思ったらば、かろうじてのれんがかかっている。滑り込みセーフ。奥の席では宴会があるようでしばらくは呑めるだろうと狙ってカウンターに陣取る。
雰囲気から寡黙な店主なのかなと思ったら、意外にも会話がはずみ、食べ物もまったく間違いがない。この季節なら当然岩牡蠣、だけど私は数年前牡蠣を食べすぎてアレルギーを発症してしまって、生でも火を通しても食べたら戻してしまうようになっていた。ためらったけど、今なら食べられる(もしだめでも、最悪戻せば元気になる)と思い食べたら、それがどうしようもなく美味しくて、美味しいでしょう?って言われるけど、美味しいのはわかってるんだよ、でも食べられなかったんだよ、うわあ美味しい、みたいなわけのわからない心情になった。これだけで、ここまでのことの帳尻は全部あった。
いつのまにか奥で宴会をしていたグループがいなくなったので、私達も会計をしてもらって(東京や京都の半分ぐらいだった)お店を出たら、何もない広い空のてっぺんに見事な月が登っていた。十四夜。
だれもいない静かな街の大通りを二人ぺたぺたと歩いて宿に戻る。月が明るすぎて星はほとんど見えず、夏の大三角だけはかろうじて光って見えたから、星を指差して「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」って、まあ普通には使わないだろうフレーズを本当に使ってしまって自分で笑った。そういえば、私達、同じぐらいの視力だった。ならば、それは同じように見えるのかと思うと余計におかしくなった。
そこでちょうど橋の手前に差し掛かり、相手の宿は川を挟んで手前側、私は向こう側なので、そこで「また明日」って別れた。ひとりで橋を渡りながら、なんか、いろいろ回収されたなあって思った。宿に帰ってお化粧落として、ちょっとだけ缶チューハイ(さくらんぼ味)を飲んだらすぐに眠くなったので寝た。